魂の1回転 vol.2「初実戦」(1/5)
<目次>
1.第1停止の高揚
2.浮かぶ疑念
3.“フワッ”を形成する要素 3つ
4.魂を込めた2つ
5.誇りに思っても良いものの始まり
1.第1停止の高揚
鏡面部に蛍光灯の明かりがキラリと反射しています。
うす暗いホールの中、1ヶ月半ぶりに対面する青黒の四角い鉄の箱。
箱の中央に構える透明なパネル内では、まぶしいほどに明かりが白く、その光の中を上から下へ無数のカラフルな塊が3本の筋となって流れています。
筋の中から狙うのは、赤でも青でもありません。
横長の棒、黒です。
狙いの場所は、パネルの左上角。もしくは枠上、左上角の一つ上です。
20秒。
レバーオンから第一停止まで、20秒数えてからストップボタンを押す、、
ルールの1つとして決めました。
あと15秒後です、、狙い通りビタッと止めるイメージはできています。
ミスすることはできません。
当たりなのか、ハズレなのかの判断に、もう1回転はありません。
薄暗い壁際に、希望の台は3台並んでいました。
照明が落ちたリール。
明かりが点々とリズムよく点滅し遊戯を誘っているのを見たとき、懐かしさがスゥーっと体の中を流れました。
リールの明かりが全て落ち、ふたたび光だすその瞬間にコインを投入しました。
少しでも大当たりに近づく。そのための試みです。
点灯のタイミングに合わせコインを投入する。
、、機械のスキをつく。
ハイテク時代といえど、人が作ったモノです。まったく“スキがない”モノをつくることは、至難のわざと思います。
可能性は、、“ゼロではない”
勝負にむけてうてる作戦のひとつ、もちろん法律の範囲内。
これも決めたルールの1つです。
左右の膝の水平と骨盤の立ちを意識し、イスの背もたれに腰を近づけます。
マスクの歪みも気になり、ズレを直しました。
ふと、入店時に女性店員からアルコールスプレーをふりかけられたことを思い出しました。
コロナの感染防止対策です。全身にかけられるのかと思い、慌てて目をつぶりましたが両手にだけでした。
8秒、、7秒、、
大きなフェイスシールドをつけた男性店員が、真後ろをゆっくり歩いていきます。
金属くずの飛来を防ぐ保護具にしか見えず、一瞬ですが工場勤務の思い出がよぎります。
スロット店に似つかわしくない井出達がそうさせるのか、何もやましいことはしていないのですが、少しドキドキするのを感じます。
パネル内、横長の黒い棒は白い光の中を何度もとおり過ぎていきます。
なにか設備の静かな音が、ジャラジャラと聞こえます。
3秒、、、
2秒、、
1秒、
20秒が経ちました。
ボタンを押そうとするタイミングにズレはありません。
水色に光る3つのボタン。その中の左、右手の親指で押しました。
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